ファッション・ビジネスの未来を創造するために、今必要なこととは? vol.1
日本に初めて「ファッション・ビジネス」という言葉を紹介し、「創造する未来」を出版した尾原蓉子氏の講演書き起こしを、3回に分けてご紹介します。vol.1は、消費者の変化とディスラプションの事例を解説するパートです。

売上の縮小や大量閉店など、暗いニュースが続くファッション業界。
SNSを含めたテクノロジーの進化によって、ファッション・ビジネスも大きな変化を求められています。
そこで今回は、店舗のないオーダーシャツ「KEI」を手掛けたり、大手アパレル企業とD2Cモデル(Direct to Commerce)のビジネスを手掛けるTO NINE Inc.(代表取締役社長 増田智士)が、「ファッションビジネスの大潮流」と題して開催した、「創造する未来」著者である尾原蓉子氏の講演書き起こしを、3回に分けてご紹介します。
日本にいち早く「ファッション・ビジネス」という言葉を持ち込み、変化の激しいファッション業界をビジネス視点で捉え続けてきた尾原氏。
vol.1では、尾原氏の講演の中から「ファッション・ビジネスの4大潮流」と「ディスラプション(秩序の創造的破壊)を起こす5つの事例」のパートをご紹介します。
目次
ファッションにおける4大潮流が、ビジネスのルールを大きく変える
▲「創造する未来」著者の尾原蓉子氏
この度はこのような貴重な機会をいただき、ありがとうございます。
2016年9月に出版した「創造する未来」は、日本に「ファッション・ビジネス」という概念を持ち込んだ人間として、今後のファッション・ビジネスの未来を提示しなければリタイアできないという思いで書き上げました。
今回は、そんな著作のさわりをご紹介したいと思います。
この本を書く上で重視したのは、大きな潮流を外さないこと、しかし事例は具体的に、現場を反映するということです。
私は、真実は現場にあると思っています。神は細部に宿る。抽象論だけでは人は動きません。
だからこそ著作の中でも具体的に、細かく現場の状況を紹介しています。
それでは、今回お話したいファッション・ビジネスの4大潮流についてご紹介させていただきます。
キーワードはこちらの4つです。
1.デジタル化
2.ディスラプション(秩序の創造的破壊)
3.パーソナル化
4.サービス化
4つめの「サービス化」については、これまでにも「モノからコトへ」という言い方がなされてきましたが、私はこの言葉があまり好きではないんですね。
具体的にどんな「コト」なのか、わかりづらいと思っています。
ファッションのサービス化というのは、生活者がこうありたいと思う姿、ライフスタイルづくりをファッション企業が支援するということです。
また、テクノロジーとパーソナル化という点では、スマートフォンを軸にして、企業主導から個人主導へとシフトしていきます。
これからは、圧倒的にスマートフォン依存の時代に入りますので、さらに企業もスマートフォン優先が重要になっていきますね。
また、オムニチャネルからユニファイド・ビジネスという言い方もでてきました。
「ユニファイド」とは統合するという意味で、店舗やWebを含むチャネルすべてを統合するという考え方が主流になってきました。
店舗とWebを語るとき、O2O(Online to Offline)を含め「送客する」というイメージがありますが、「送客」という考え方はこれからは絶対にダメです。
顧客を店舗へ「送る」のではなく、顧客が自ら選び、自分の世界を自ら作ることを支援するという意識が重要です。
所得に占めるアパレル・靴の支出額は、ピーク時には5.2%だったのが、現在は3.4%まで減っています。
もともとは百貨店主導だったのが、SPAができ、大型ショッピングセンターができ、無店舗販売の発展形ということでECが生まれました。
今は、これらが一体になりながら、顧客主導でオムニチャネル、という流れになってきています。
ここで重要になるのが「マイストア」という考え方です。
消費者一人ひとりが「マイストア」を持ち、ここにいけば後ろにネットが広がり、そこですべて用が足りるというお店になる必要があります。
これまでコミュニケーションチャネルは、4つの段階を追って変化してきました。
1.シングルチャネル
2.マルチチャネル
3.クロスチャネル
4.オムニチャネル
シングルチャネルで、店舗と顧客が直接関わっていた時代から何が変わったかというと、スマートフォンがリーチできる範囲が磁石の磁場のように、あらゆるチャネルで接点をもてるようになったんですね。
さらに消費者の変化もあります。
▲現在起きている消費者の変化。
特に大きな変化としては、浪費から倹約への流れです。
これはみじめな節約ではなく、誇り高く、ときめくもの以外はすべて捨てていいという考え方ですね。
さらに間接から直接という変化もあります。
モノを作った人が直接届ける、さらに情報も間に人が入るほど薄まってしまうわけですから、これも直接届ける必要があります。
そしてマス商品からパーソナル化へ、特に英語でいう「レレバント(relevant)」という言葉は日本語訳しにくいのですが、 “私”にとって意味がある、そう感じさせることが重要になりつつあります。
ディスラプション(秩序の創造的破壊)を起こす5つの事例
▲当日は、ファッションに携わるビジネスマンを中心に、ほぼ満席となった
ここからは、ディスラプションの事例5つを、注目ポイントと共にご紹介させていただきます。
1.Uber (適価)
2.Rent the Runway (シェアリング、服を “個人財”から “社会財”へ)
3.Stitch Fix (AIの活用)
4.Everlane (直接・介在者排除
、透明性)
5.バーチャルショッピング (テクノロジー)
まず1つめにご紹介するのがUberです。
Uberはみなさんご存知だと思いますが、特に注目していただきたいのはダイナミック・プライシングです。
ダイナミック・プライシングというのは、価格が変動するわけですね。
私もこれまでファッション・ビジネスの現場でずいぶんと教えてきましたが、マーチャンダイジングの5適の中に「適価」というものがあります。
しかし今の時代、「適価」なんてものがあるわけないんですよ。
同じ商品でも、1万円出してでもほしい人もいれば、1,000円でも欲しくない人もいます。
だから「適価」は、その場その場で、顧客との間で決めるのが一番いいわけです。
Uberは、サージ料金によってWin-Winの仕組みを作り上げていると言っています。
例えば雨の日には料金があがるのですが、それによってドライバーが「今日価格が高いなら出勤しようか」と思うことで街中に車が増え、乗りたい人がスムーズに乗れる、全員が得をするシステムだと言うんですね。
我々は今「適価」と思う価格をつけて、売れ残ったら価格を下げるというかたちでビジネスをしていますが、もともと商売は「これいくらならほしい?」という物々交換から始まっています。
今、テクノロジーの力によって、その原点に戻れる時代になったということです。
▲書籍の中でも、特に象徴的な事例として紹介されていたRent the Runway。
次にRent the Runwayの事例ですが、これは書籍の中でもディスラプションの象徴的な事例として、序盤に取り上げています。
Rent the Runwayは、高級ブランドのファッションアイテムを貸し出すサービスで、製品価格の15〜25%の値段で4日間レンタルすることができます。
パーティードレスは、平均2回しか着用されないと言われています。
社会的にも無駄ですし、エコロジー的にはもっと無駄、さらに個人の経済的負担も大きいということで、レンタルによって解決しようという発想から始まっています。
今非常に伸びている会社なのですが、ここからさらにキャリア女性に向けたサブスクリプション(定額制)モデルも開始しています。
月額139ドルで3点レンタルすることができ、1点返却すると1点新たな洋服が送られてくるという仕組みです。
レンタルするたびにAIがそれぞれの好みを学習し、自分にぴったりの洋服を手に入れることができます。
さらに、パーソナルスタイリングのStitch Fixというサービスがあります。
このサービスがすごいのは、感性的な部分を非常に重視していることです。
ユーザーの好みのスタイルを、8つのグループに分けているので、イメージがはっきりわかりやすいんですね。
こうした分類なくして、スタイリストが好みのアイテムをセレクトしますというのは、とても非効率なやり方です。
残念ながら、今の日本のファッションレンタルはそういう状況になってしまっています。
Stitch Fixでは、好みのスタイルはもちろん、サイズや好きなブランドもアイテムごとに設定できます。
そうしたデータを元に5つのアイテムが送られてきますので、気に入ったものだけ購入できるという仕組みです。
1点につきスタイリング料として25ドル支払い、5点すべて購入すれば商品代金から25%割引で購入することができます。
ちなみにごく最近、Stitch FixではAIを活用して、洋服のデザインを開始しました。
一番売れている素材、形などを組み合わせて、新商品を開発しています。
AIは最初の1点は作れませんが、デザインのコアができれば、それをもとに展開させるのはAIがもっとも得意とすることですよね。
▲ファッション・ビジネスの新たなモデルとして注目を集めるEverlane。
次にEverlaneです。
この企業が特徴的なのは、原材料から輸送費、関税まですべての情報を公開していることです。
さらに、工場の風景から担当者の顔まで公開し、エシカルなものづくりをしていること、子供達を労働力として使っていないことなどの情報も載っています。
Everlaneの商品が、なぜ安いのかも説明されています。
ECを通して直接販売することで間接費を減らし、店舗をもたずに販売していることから、通常50ドルの商品もEverlaneなら15ドルで提供できるという仕組みまで公開されています。
彼らは Radical Transparency、「過激な透明性」を大切にしているんですね。
採用ページでも「ルールブレイカー歓迎」と表記されており、社風がよく伝わってきます。
またこれは昨年のホリデーに彼らが行ったキャンペーンなのですが、「気に入ったあまり、作りすぎてしまいました。」ということで、3パターンの価格を提示しました。
Everlaneのマージン一切なしの105ドルと通常価格の10%ディスカウントである135ドル、その中間の120ドルの3種類です。
結果は聞いていませんが、Everlaneにはファンが多いので、105ドルで購入した人はほとんどいなかったのではないかと思います。
最後に、私が毎年参加しているNRF(全米小売業協会)大会から、最近のトレンドをご紹介します。
今年は、NRF大会ではじめて中国の越境コマースの事例がでてきました。
NYのお店の中で、中国人に特に人気のお店をピックアップし、ARを活用してバーチャルショッピングが楽しめるというものです。
事例として紹介されたモニカさんは、このショッピングを通して24,000ドル(約260万円)の買い物をしたそうです。
ぜひ日本からも買い物してほしいものですね。
このように、ローカルにいながらグローバルな買い物ができるようにするのは、今後の大きなトレンドです。
さらにレベッカ・ミンコフというブランドは、早くからテクノロジーを取り入れています。
ICタグの付いたアイテムを試着室に持ち込むと、天井にあるセンサーがタグを読み込み、商品に関する情報や、自分の過去の購買履歴などが表示されます。
さらにスタッフを呼び出したり、コーヒーを注文したりすることもできます。
こうしたアメリカの事例と比較して、日本の起業との違いを感じるのは、日本の場合は理論的にこういうものがニーズがあるはずだ、ニッチだから勝てるはずだという戦略ありきでやっている点です。
今回紹介した企業はすべて、自分が不便に感じていることや、「なぜこうなっているんだ、おかしい!」と思うことに対して「ないなら私が作る!」という思いではじめています。
本当にニーズを感じている人だったら、失敗しても失敗しても、なんとしてでもやってやろうと思って、最後までやりきることができると思うんですね。
この点は、日本とアメリカの大きな違いだと感じています。
» vol.2 「ディスラプションの根底にある市場の変化」を読む
»vol.3 「8人のパネリストから、尾原氏への公開質問」を読む

ポップアップストア・催事イベントにおすすめなスペースや、ノウハウ・事例を紹介いたします。
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